ゼロの焦点 松本清張

はっきり白状しますが、映画化されたので読んでみました。ええ、単純ですよ。ああ、そうさ単純さ。


もう一つは、TVか何かで予告編みたいな番組を見て、映像の綺麗さが原作ではどう表現されているのかに興味がわいて、本を手に取りました。


読み始めたら、つい引き込まれて一気に読んでしまいました。やっぱり、巨匠と言われる人の作品は、洗練されているなと感じました。特に気がついたのは下記の点です。


1.登場人物が無駄に多くない。
驚いたのは、本筋に関係ない人は、名前さえ付いていません。「X教授」、「A氏」扱いです。
意味ありげに登場して、尻切れとんぼのような登場人物は最初から、イニシャル扱いです。
最初見たときは、笑ってしまいましたが、ここまで大胆に割切って書かれると、なんかかえって安心して話を追うことができます。

逆にそこが狙いなのかもしれませんが。


2.話が脱線しない。
主人公はひたすら夫の死の原因を追い続けます。手綱なんか緩めません。
変なロマンスに浸ったりなんかしないのです。
さらに、登場人物と同様に意味ありげで全く意味のない話の前振りはないのです。
話しのスジまで無駄が無く構成されています。
直球勝負なストーリー展開は、清々しささえ覚えます。


3.いつも腹八分目で話が進む。
読んでいくと、次から次へと謎が出てくるのですが、一部は主人公の頭の中の考えという形で、次から次へとなぞを解いていきます。
もちろん、何でもかんでも解いていくという訳ではなく、残った謎と、解かれた謎の絶妙のバランスが、常に腹八分目の状態となって、もっともっとと言う感じで、読み進める動機になっていきます。
真犯人以外は、一つの謎が解決されないままずーっと最後まで引っ張られる事が無いので、ストレス無くストーリーを楽しみながら、読み進み事ができます。
この辺のさじ加減が本当に旨いと感じました。


小手先のごまかしが無い謎と気になっている上に、謎についても程よく満足感を与えられるので、テンポよくストレス無く、純粋に作品をエンターテインメントとして楽しむことができる作品でした。

ゼロの焦点 (新潮文庫)

ゼロの焦点 (新潮文庫)